歯周病とは歯茎や歯肉の病気だと思っておられる方が非常に多いのが現実です。しかしながら実際に歯周病とは、歯を支える大切な骨が溶けていく自覚症状のない恐ろしい病気なのです。歯を失う原因で最も多いのは実は虫歯ではなく、歯周病なのです。まずはご自身の歯周病の状態をあらゆる角度から知ることが大切です。
1つでも当てはまったら歯周病の可能性があります。歯科医院での早めの受診をお勧めします。
歯周病の主な原因は、歯磨きが適切に行われなかったことにより、食べかす等の汚れが歯面に付着し、細菌が繁殖することです。つまり、歯周病は 歯周病細菌による「感染症」なのです。生まれて来た赤ちゃんの口の中には、歯周病細菌はまったく存在しません。ほとんどの場合、家族間から感染します。例えば、若年性歯周病の原因菌とされている『アクチノマイセテムコミタンス菌』は、大人から大人へと感染することはなく、まだ永久歯が生えそろわない、10歳程度の時期に大人から子供へ感染することが最近の研究により報告されています。
バイオフィルムは、台所やお風呂の排水管のネバネバした部分で、細菌が菌体外多糖という物を作って堆積した非常に取りにくい細菌の固まりです。つまり歯周病の原因であるバイオフィルムとは、お口の中にあの台所のネバネバとした細菌の塊がある状態といえます。バイオフィルムの中には、虫歯や歯周病の原因菌が多数存在しています。ではどうしたら、このバイオフィルムを除去することが可能なのでしょうか?
答えは簡単。歯ブラシやフロス等で機械的にこすり、除去することです。しかし、歯ブラシだけで完全にバイオフィルムを除去することはできないと言われています。特に歯周ポケットの内部には、歯ブラシは届きませんのでバイオフィルムの内部の細菌を除去することはできません。歯周病を治すには単に消毒したり、その部分に薬を入れるだけではなく、このバイオフィルムを専門的に除去していく必要性があるのです。
ポケット(歯と歯肉の境の溝)が3~4mmとなります。歯と歯肉の溝に細菌が集まり、バイオフィルム が形成されると細菌が放出する酵素により歯肉に炎症が起こり、歯周ポケットができます。 いわゆるこの段階が軽度の歯周病段階です。この段階であれば、歯科医院での歯石取りやクリーニングで治すことが十分可能です。
ポケット(歯と歯肉の境の溝)が概ね5~6mmになります。 ポケット内部でバイオフィルムが増殖すると、細菌を食べる多形核白血球や抗体が登場します。白血球は酵素を分泌し、細菌を攻撃しようとします。しかし、細菌はバイオフィルムのバリアーにより保護されているため、白血球の攻撃を受けません。 逆に白血球が出す酵素により歯肉が破壊され、歯肉の炎症はさらに拡大します。
ポケット(歯と歯肉の境の溝)が7mm以上になった状態です。免疫細胞や抗体は細菌を攻撃し続けますが、バイオフィルムのバリアー効果により、細菌はダメージを受けません。それどころか バイオフィルムは どんどんと巨大化して行きます。その結果、炎症は深部へと進行し、歯周ポケットはさらに深くなり、最終的には骨の吸収(溶ける)が始まります。こうなると歯を支える骨がなくなってきて、ついに歯がグラグラしてきます。最終的に歯が抜け落ちてしまいます。
歯や歯ぐきの健康は口の中だけでなく全身と関係しています。口の中には何百種類という細菌が生息していますが、口から体の中に入り込むとさまざまな病気(心臓病、肺炎、糖尿病、早産等)を引き起こすことが知られ、医科でも問題になってきています。歯周病をたかがお口の病気とあなどってはいけません。歯周病の人が心臓病になる確率は2~3倍にあがります。
歯周病菌が肺に感染し肺炎になることがあります。
重症になると歯周病菌による炎症から血栓(血の固まり)ができやすくなるため、動脈硬化を招き心筋梗塞(しんきんこうそく)や狭心症(きょうしんしょう)などを引き起こすことがあります。また心臓の内側にある心内膜(しんないまく)の炎症を引き起こし、細菌性心内膜炎(さいきんせいしんないまくえん)になる場合もあります。
歯周病が糖尿病を引き起こすだけでなく、糖尿病の患者さんが歯周病にかかっていると血糖コントロールが難しくなり、さらに悪化してしまう可能性があります。
歯周病菌による口内の炎症が胎児の成長に影響し早産を引き起こすことがあります。歯周病の妊婦は、歯周病でない妊婦と比べて、早産や未熟児を出産する確率が7倍にもなるといわれています。
超音波スケーラーと言われるマイクロ振動と水圧により歯面や歯根面に付着している歯石とともにこのバイオフィルムの除去を行います。
『フラップ・オペレーション』とは、歯周病の初期治療である『ルートプレーニング』の後に行う治療です。歯周外科処置というとちょっと恐い感じがしますが、治療自体は『ルートプレーニング』とさほど変わるものではありません。一般的に 初診時に6mm以上の歯周ポケットがあった場合には、再評価の時点でもまた問題が残る可能性があります。問題(歯周ポケットがある)があるということは、まだ歯肉の内部に汚れや歯周病細菌が残っているということです。細菌を残したまま、治療を終了すると必ず再発してしまいます。
つまり、『フラップ・オペレーション』とは『ルートプレーニング』では取りきれなかった深い部分に存在する汚れや歯周病細菌を取除くことになります。『ルートプレーニング』と違うところは歯肉に切開を加えることです。切開をすることにより、歯肉の深い部分まで直視することが可能になります。治療自体は麻酔を行いますので、痛みがあることはありません。しかし、個人差はありますが、治療後に腫れる可能性があります。重度の歯周病の場合は、この『フラップ・オペレーション』を行わないと歯周病は治りません。
前述で歯周病は歯肉の病気ではなく、顎の骨を溶かす生活習慣病だと申し上げました。顎の骨がなくなると、当然歯が抜け落ちてしまいます。そこで、前述の歯周外科治療を行い場合によっては顎の骨の再生治療が必要になることがあります。当院では、この骨の再生治療として「GTR法」「エムドゲイン法」の2つを行なっております。以下にこの2つの治療法をご説明いたします。
歯周病で溶けた歯槽骨などの歯周組織は、その原因菌を除去すれば再生しようとします。しかし、歯周病に罹患した部分をクリーニングした後に何もせずそのまま治癒を待つと歯槽骨が再生する前に歯肉が再生し、歯槽骨の再生を阻害してしまいます。 そこでGTR法とは歯周ポケット内部を清掃した後にメンブレンと呼ばれる生体適合性に優れている人工の膜を設置し、外からの歯肉が入り込まないようにし、メンブレンの下で歯槽骨をゆっくりと再生させていく治療法です。新たに再生した歯槽骨は時間の経過とともに成熟し、完全にもとの組織と同じ位の成熟度に達します。
エムドゲイン法は、上述のGTR法と同じく、歯周組織を再生させる治療法です。GTR法では、歯肉が入り込むのをメンブレンという人工の膜を用いて阻止しますが、エムドゲイン法では、エムドゲイン・ゲルという薬剤を患部に入れ、歯肉の侵入を防ぐと同時に歯周組織の再生を促します。このエムドゲイン・ゲルは時間の経過とともに歯周組織の再生を促しながら吸収されていきますので、GTR法のように後からもう一度メンブレンを取り除く手術を行う必要はありません。※GTR法もエムドゲイン法も重度の歯周病など症状によっては適さない場合もございます。
現在、歯周病の患者様にとっては、『歯周病は本当に治るのか?』ということは、最も気になるところだと思います。まず始めにその答えからお話します。中度までの歯周病であれば、十分改善します。治療や状況しだいで、重度の歯周病であっても改善する可能性はございます。つまり骨再生治療を行えば、骨の回復(再生)もかなり行えるということです。しかし、あまりにも非常に進行した歯周病の場合には、残念ながら治りません。やはり歯周病も他の病気と同じく、早期発見・早期治療が重要であるといえます。